


#93
客商売はラクじゃない!
2025.10.24
- この街を歩いていると、季節の移ろいを肌で感じる。ほんの少し前までの猛暑が嘘(うそ)のように、すっかり秋模様だ。陽射しは柔らかく、落ち葉を踏みしめるたびに心も落ち着いてくる。
ぼくは探偵という、まあ一応は客商売をやっている。オーダーが来なければ食っていけないという意味では、飲食店などその他サービス業とそう変わらない。客商売というものは長く続けるほど難しくなる。最初の頃は新しさや物珍しさで客が集まってくれるけれど、同じことばかり繰り返していると飽きられてしまう。かといって大胆に方向転換すれば「なんだか前と違う」と言われ、あっさりと離れていかれる。探偵業も似たようなものだ。浮気調査や人探しばかりやっていれば“どこにでもいるお助け屋”と評価されるが、ちょっと風変わりな案件を引き受ければ“あの探偵、妙なことをやっているらしい”と変な噂を立てられる。世の中は実に勝手だ。
最近は「客商売向けのコンサル」なる肩書きの人も増えた。飲食やアパレル、小売に至るまで、あらゆる業種で売上アップの秘訣(ひけつ)を教えてくれるという。ぼくも正直、依頼数が伸び悩むときなどには「1度そういうのに頼んでみてもいいのかも」と考えたこともあるが、高い金を払った挙げ句に“笑顔で接客対応しましょう”といった当たり前のことしか言われなかった、なんて同業者の話も耳にしたこともある。
そんな取り留めのないことを考えながら歩いていると、腹が鳴った。
- とある探偵
- さて、昼飯でもどうするかな
- ぼんやり顔を上げると、目の前の店先に1枚の張り紙が出ていた。
捜査を開始する